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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)809号 判決

一審原告(第八〇九号被控訴人)

髙原脩

外一九名

一審原告(第一二七六号控訴人)

松谷敏道

一審原告(第八〇九号被控訴人兼第一二七六号控訴人)

伊藤博幸

外四名

右二六名訴訟代理人弁護士

松重君予

岡田要太郎

上田日出子

梶原高明

木村治子

小林広夫

後藤玲子

長久一三

中村留美

野田底吾

羽柴修

正木靖子

増田正幸

山内康雄

山崎省吾

松本隆行

一審被告(第八〇九号控訴人兼第一二七六号被控訴人)

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

宮津純一郎

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

加藤一郎

竹田穣

佐藤安男

安部隆

金子喜久男

渡辺昭典

主文

一  一審被告の控訴に基づき、

1  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

(一)  原判決添付債権目録記載の一審原告ら(一審原告松谷敏道を除く)と一審被告との間において、同原告らの同目録債権金額欄記載の債務は、対応する同添付ダイヤル通話料金一覧表2の「回線使用料③のイ」欄記載の金額を超えて存在しないことを確認する。

(二)  同原告らのその余の請求を棄却する。

2  原判決主文第三項中、

(一)(1)  一審原告髙原脩、同嵯峨根徹、同麻生近子、同丹澤靖義、同黒田かつよ、同小森信光、同佐原肇、同亀井芳美、同吉田稔、同苅田勇吉、同澤野輝彦及び同竹島正明に関する部分を取り消す。

(2) 同原告らの請求を棄却する。

(二)(1)  一審原告の伊藤博幸、同藤岡強、同近藤道子、同島村美津子及び同和田悦男に関する一審被告の敗訴部分を取り消す。

(2) 同原告らの請求を棄却する。

二  一審原告松谷敏道、同伊藤博幸、同藤岡強、同近藤道子、同島村美津子及び同和田悦男の本件控訴を棄却する。

三  原判決添付ダイヤル通話料金一覧表1中、「和日悦男」とあるのを「和田悦男」と、「苅日勇吉」とあるのを「苅田勇吉」と、同一覧表及び同添付ダイヤル通話料金一覧表2中、一審原告藤原信広の「①ダイヤル通話料としての請求内容」欄に「平成3年9月分、平成3年10月分」とあるのを「平成3年8月分、平成3年9月分」と、一審原告斉藤実の同欄に「平成4年7月分」とあるのを「平成3年7月分」と訂正する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じ、一審原告佐原肇、同苅田勇吉及び同竹島正明と一審被告との間においては全部同原告らの負担とし、その余の一審原告らと一審被告との間においてはこれを三分し、その二を同原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  一審原告ら(一審原告松谷敏道、同伊藤博幸、同藤岡強、同近藤道子、同島村美津子及び同和田悦男を除く)

1  一審被告の本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審被告の負担とする。

二  一審原告松谷敏道

1  原判決を次のとおり変更する。

一審被告は同原告に対し、原判決添付債権目録の同原告に対応する債権金額欄記載の債務は存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

三  一審原告伊藤博幸、同藤岡強、同近藤道子、同島村美津子及び同和田悦男

1  一審被告の本件控訴を棄却する。

2  原判決を次のとおり変更する。

一審被告は同原告らに対し、同添付請求金目録の右原告らに対応する請求金額欄記載の金員及びこれらに対する一審原告島村美津子及び同和田悦男については平成三年七月二六日から、同伊藤博幸、同藤岡強及び同近藤道子については同四年三月一八日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

四  一審被告

1  原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、いわゆるダイヤルQ2(以下「Q2」という)の利用にかかるダイヤル通話料(以下「Q2通話料」という)につき、自身が利用したものではないからその支払義務はないとして、原判決添付債権目録記載の一審原告らが同目録記載のQ2通話料債務の不存在確認を求めると共に、同添付請求金目録記載の一審原告らについては、既に支払済のQ2通話料を不当利得として、その返還を求めた事案である。

一  前提となる事実

1  一審被告はNTTの通称で国内電気通信事業及びそれに附帯する業務その他を行う株式会社である。

一審原告らは一審被告との間で加入電話契約を締結している(右契約締結者を以下「加入者」という)。

2  一審被告は、平成元年五月三〇日、郵政大臣に対し、日本電信電話株式会社法(以下「法」という)一条二項の「附帯する業務」としてQ2業務の届出をなし、同年六月一日、Q2に関する電話サービス契約約款(以下「約款」という)一六二ないし一六四条を認可を得ることなく追加し、同二年七月から全国的にQ2サービスを開始した。

なお、Q2の内容については原判決六枚目表六行目から同裏四行目までに記載のとおりである。

3  約款一六二条には、有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等の場合はその加入電話等の契約者)は有料情報サービスの提供者(以下「業者」という)に支払う当該サービスの料金等(以下「情報料」という)を一審被告が業者に代わって回収することを承諾して貰う旨、また、同一六三条には、情報料はダイヤル通話料に含めて料金月毎に集計の上、加入者に請求する旨が定められている。

4  更に約款一一八条には、一般の通話料につき、加入者以外の者が加入電話を利用した場合でも、加入者が通話料の支払義務を負う旨が定められている。

5  加入電話からQ2を利用した場合、Q2通話料は一審被告の電話施設(電話回線)利用料(以下「回線使用料」という)と、業者に支払われる情報料との合計額である。

6  一審被告は業者との間のダイヤルQ2情報料回収代行サービスに関する契約(以下「回収代行契約」という)に基づき、業者から一番組毎に月額一万七〇〇〇円の手数料(以下「番組手数料」という)と回収した情報料の九パーセントに当たる手数料(以下「回収手数料」という)を得ている。

7(一)  一審被告は本件訴訟前、一審原告らに対し、Q2通話料として原判決添付ダイヤル通話料金一覧表1及び2(以下「一覧表1」、「一覧表2」という)の「③Q2通話料」の支払を求めた。

(二)  原判決添付債権目録記載の金額(一覧表1の「⑦Q2通話料残額」欄記載の金額)は右請求の残額である。

8(一)  一審原告らの加入電話に接続されている電話交換機の種類によっては、通常の通話料(以下「Q2外通話料」という)とQ2通話料との区別ができないものがあり、また、右区別ができる交換機であっても、加入者から料金明細の登録を希望しなければ、Q2通話料につき回線使用料と情報料との区別(分計)ができない(右登録をしても、料金を回収したため電磁記録が消去されると分計が不可能となる)。

(二)  そこで、一審被告はQ2通話料につき分計できない部分については、回線使用料については最低値(深夜、早朝時間帯の区域内通話で四分毎に一〇円)を、情報料についてはその最高値(四分毎に四〇〇円)を適用しても、Q2通話料に占める回線使用料の割合は四一分の一を下らないから、Q2通話料の四一分の一を回線使用料とみなし、回線使用料を算出している(加入電話からQ2を利用するについては、必然的に電話回線を利用することになるから、右算出方法は、一審原告らの利益とはなっても、不利益とはならない)。

9(一)  また、一審被告は一審原告らのQ2通話料のうち、回線使用料と情報料とを分計できない分(一審原告髙橋につき平成三年二ないし四月分(四月分については一部分計できる)、同嵯峨根につき同年一ないし三月分(三月分については一部分計できる)、同麻生につき同年三月分、同丹澤につき同年一ないし三月分、同黒田につき同年四、五月分、同小森につき同二年一二月分、同亀井につき同三年五月分、同吉田につき同年四、五月分、同小寺につき同年五月分、同梅岡につき同年五月分、同澤野につき同年三、四月分)については、右8(二)の計算法により、一覧表2の「回線使用料③のイ」と「情報料③のロ」とに分計した(なお、右分計の前提となるQ2外通話料とQ2通話料との区別自体ができない場合は、一審被告は一審原告らが平均的Q2外通話料として認容する額を採用した)。

(二)  本訴において、一審被告が一審原告らに対し主張する債権は一覧表2の「回線使用料③のイ」欄記載の金額である。

10  ダイヤル通話料のうち、一覧表1(及び2)の「⑤支払済料金」欄記載の金額が一審原告らの預金口座からの自働引き落とし等により一審被告に支払われた(但し、一審原告髙原の平成三年三月分のQ2通話料一九万三一八九円については支払われたか否かにつき争いがある)。

11  一審原告らのうち、一審原告苅田、同松谷及び同伊藤により一覧表1及び2のQ2通話料に概ね対応するQ2を利用した。

二  証拠

証拠関係は原、当審記録中の証拠目録記載のとおりである。

第三  争点

一  情報料債務の有無及び一審原告髙原については平成三年三月分のQ2通話料が支払済であるか否か

1  一審被告の主張

(一) 一審被告は本件Q2通話料のうち、情報料は回収代行契約に基づき利用者から徴収しているに過ぎず、右情報料債権は一審被告固有の債権ではない。

したがって、一審原告らの債務不存在確認請求中、情報料に関する部分は実質上訴の利益がない。

(二) 一審原告髙原は平成三年三月分のQ2通話料(一九万三一八九円)を支払済であるから、同原告の債務不存在確認請求中、右通話料に関する部分は訴えの利益がない。

2  一審原告らの主張

(一) 一審被告は情報料債権の不存在について争わないが、回収代行契約に基づく回収代行権限がある旨の主張を維持しており、一審原告らの法律上の地位の不安定が維持しており、一審原告らの法律上の地位の不安定が除去されたということはできないから、債務不存在確認の利益がある。

(二) 一審原告髙原の通話料一九万三一八九円の支払は但陽信用金庫の過誤による引き落しであり、その後同金庫から返還されたので、同原告は右通話料を支払ったことにはならない。

したがって、同原告は右金額につき債務不存在確認を求める利益がある。

二  一審原告苅田及び同伊藤についてはその家族が、また、同松谷については同原告自身又はその妻が加入電話によりQ2を利用したか否か

三  回線使用料(分計できないものについてはQ2通話料の四一分の一)の支払義務の有無

1  一審被告の主張

(一) 一審原告ら加入者自身がQ2を利用していないとしても、加入電話からQ2が利用された場合には、加入者本人に回線使用料支払の義務がある(約款一一八条)。

(1) Q2を利用すると、回線使用料がかかるが、これは一審被告が有する電話回線を利用するというそのことのみで発生する。

(2) ところで、約款一一八条によると、回線使用料は、家族、友人等、加入者以外のものが加入電話を利用した場合にも、加入者本人に支払義務があるものとされる。

(3) その理由は、利用者が加入者と異なる場合があっても、その利用を特定し得る手段は電話番号のみであるという電話の特殊性から、右加入者に回線使用料の支払を求めざるを得ないからである。

(4) 更に、電話は誰にでも利用できる設備であるが、その管理が加入者のみによって可能な場合には、当該電話が如何なる第三者に利用されたとしても、その負担は加入者が負うべきであると解するのが公平、かつ、合理的である。

(二) 和解契約等

一審原告島村、同吉田及び同澤野は一審被告との間にQ2通話料債務の存在を認める旨の和解契約等を締結した。

(三) 未成年者の親権者又は電話管理者としての責任

本件Q2は、一審原告ら自身またはその家族が利用したものというべきであるが、仮に一審原告らがこれを了解していなかったとしても、それは加入者である一審原告らの電話を電話管理不行届であるから、回線使用料の支払義務があることは当然である。

(四) 加入電話使用の承諾

(1) 一審原告嵯峨根、同齋藤、同藤岡、同宮本及び同近藤(道)は、右一審原告らの居住場所以外に、その家族のために電話を設置している。

このような場合には、右一審原告らは同所の居住者に対し、その電話の自由使用を包括的に許諾し、かつ、その通話料(Q2通話料を含む)を負担することを黙示的に承諾しているものというべきである。

(2) 一審原告髙橋、同近藤(道)、同永見、同澤野、同佐原、同亀井、同和田及び同小寺は、子供らの部屋に電話(子機など)を設置しているし、同髙原、同丹澤及び同近藤(春)においても、子供らによる電話の自由な利用が可能である。

このような場合には右(1)同様に、右一審原告らは子供らが電話を自由に使用し、その料金を負担することを予め承諾しているものというべきである。

(3) 一審原告嵯峨根、同丹澤、同黒田、同佐原及び同竹島においては、Q2利用が長期間に亘っており、かつ、右事実が判明後も、利用者はQ2を継続して利用している。

このような場合には、右一審原告らはQ2の利用及びその料金を負担することを承諾していたものというべきである。

(4) 一審原告小森、同藤岡、同永見、同島村及び同亀井は、利用者が長電話をしていたことを知っていたのであるから、仮にそれがQ2通話であったことを知らなかったとしても、右架電による通話料負担の意思があったというべきである。

(五) 従って、一審原告らの債務不存在確認請求のうち、回線使用料債務の不存在確認を求める部分は失当である。

2  一審原告らの主張

(一) Q2に約款一一八条の適用はない。

(1) そもそも、電気通信を利用した営利事業であるQ2には、電気通信の公共性、公益性に配慮した約款一一八条は適用されない。

(2) Q2の料金は、架電先が殆どの場合アダルト番組などであることから、通常の長距離電話に較べて格段に高額化する危険がある。

(3) また、右番組内容からすると、他人に利用される危険性がある。

(4) Q2は後記四2(一)(2)のとおり無認可業務であるうえ、一審被告はQ2制度を開始するに際し、一般への周知、徹底、あるいは説明を充分せず、かかる制度の存在自体知らないものが殆どであった。

(5) 回線使用料は情報料と不可分一体のものであり、情報料債権の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的な債権であるから、Q2外通話料と異なり、約款一一八条を適用すべきではない。

① Q2における通信と情報提供の一体性

一審被告は業者に対し、有料情報指定回線を付与し、かつ、自社の機器で情報料を測定し、業者に代わって継続的に情報料を利用者から取り立てていることに照らせば、一審被告は情報提供産業に実質的事業主体として関与し、これと電機通信事業とを結合させ、一体性を持たせたというべきである。

したがって、Q2通話料において、情報料と回線使用料を分離することは許されない。

② 一審被告と業者の経済的一体性

Q2を利用した情報提供は一審被告が料金回収サービスを開始しなければ、経費、人材等の面から本来事業としては成り立たず、参入し得なかった業者によるものが殆どである。

また、現行システムでは、一審被告は番組手数料と回収手数料を得られるうえ、別途回線使用料を取得できるのであるから、一審被告と業者は共同収益事業を行っているものといえる。

そして、右共同収益事業により提供されるQ2番組は情報と電話サービスが一体となった商品であり、一審被告が得る収益も情報料と通話料が渾然一体となったものである。

③ 利用者側の理解

現行Q2はその冒頭のガイダンスにおいても、回線使用料と情報料とを区別した説明はなされず、合計秒数による料金の説明があるだけである。

したがって、利用者の大部分は一審被告と業者という別個の主体から別々にサービスを受けているという認識はなく、一つのサービスを受けているという理解しかない。

④ 情報料と回線使用料の法的一体性

以上のように、情報提供と通信とが不可分一体となってQ2サービスが提供されている実態に照らせば、回線使用料債権は情報料債権の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的な債権である。

⑤ 一審原告らは一審被告に対し、情報料の支払義務を負わないから(右支払義務を負うのはQ2を利用した者、その請求権者は一審被告ではなく業者である)、信義則上、それと一体となっている回線使用料の支払義務も不成立又は消滅する。

(二) 和解無効

前記和解契約等は弁護士法七二条に違反し、無効である。

(三) 電話管理者責任

(1) 一審被告のQ2通話料(回線使用料)の請求は電話加入契約に基づくものであり、債務不履行、不法行為等に基づく損害賠償ではないから、電話管理者としての一審原告らの責任をいう一審被告の主張は失当である。

(2) 信義則違反

Q2の利用は本質的に管理監督が困難なものであり、何らその利用制限等を周知する手だてを取っていない一審被告が、一般家庭でQ2の利用を監督できると主張することは信義則に反し許されない。

四  回収済Q2通話料につき不当利得返還請求の成否

1  一審被告の主張

回収済Q2通話料は不当利得にならない。

(一) 約款一六二条による回収代行

(1) 一審原告らは約款一六二条(Q2は回収代行業務であり、法一条二項にいう附帯事業であるから、届出で足り、認可は不要である)により一審被告による情報料の回収を承諾しているものであり、一審被告は右回収承諾に基づいて情報料を請求したのである。

(2) そして、その回収の方法は約款一六三条により、ダイヤル通話料に含めて料金月毎に加入者に請求することと定められている。

(3) 一審被告はかくして回収した情報料をすでに業者に支払済である。

(4) また、約款一六二条によると、一審被告は業者の代理人であるが、そもそも代理人は不当利得の当事者にはならない。

(二) 電話管理者責任

前述のとおり、本件Q2の利用は一審原告らの電話管理不行届の結果であるから、回収済情報料は不当利得ではない。

(三) 右のとおり、一審被告には一審原告らから情報料を回収する法律上の原因があることは勿論、利益も現存しないことが明らかである。

したがって、回収済の回線使用料の返還義務もない。

(四) なお、一審原告嵯峨根、同近藤(道)及び同藤岡については、自ら通話料を負担しておらず、損失がないから、その返還請求は認められない。

2  一審原告らの主張

(一) 約款一六二条ないし一六四条は次の理由により拘束力を持たない。

(1) 内容の不適正

普通契約約款の個別条項が拘束力を持つためには内容の適正が必要とされるが、約款一六二条ないし一六四条には、

① 公平性の原則が確保されていない。

② 文言上も解釈上も、明確性の原則が確保されていない。

③ 加入者が情報提供契約の契約者でない場合に、何故に加入者が約款の条項に登場するのかについて、何等の法的解明も整備もなされてない。

(2) 無認可

① Q2業務の実態に照らせば、Q2は法一条二項の「附帯する業務」には当たらない。

② また、Q2が約款一条二項の「付随サービス」に当たるともいえない。

③ Q2における料金体系は加入者からみて従来の料金算出方法の実質的な変更であるから、Q2業務を営み、約款一六二ないし一六四条を追加するには郵政大臣の認可が必要であるというべきところ、一審被告はこれらにつき何等の認可も得ていない。

(3) 制度的保障及び推定意思の不存在

① 約款一六二ないし一六四条は何等の認可も受けていないから、加入者の意向が反映されるような制度的保障がない。

② また、約款内容の充分な開示がなされておらず、その内容自体も、加入者に一審被告の回収代行を一方的に承諾させるという非慣行的な規定であり、加入者にとって不意打ちとなるような負担を課するものであるから、加入者が当該条項を契約内容とする意思を有すると推定するに足りる状況が存在しない。

(4) 情報料回収代行業務の弁護士法違反

Q2における情報料回収の代行は、弁護士でない一審被告が、手数料を得る目的で、業として行うものであり、かつ、回収代行の実際の手続においては、一審被告は支払の督促や取立を行い、和解契約をなし、公正証書の作成、支払命令の申立、訴えの提起等をも行うのであり、右は法律事件に関する法律事務を取り扱うことに該当するから、弁護士法七二条に違反する。

(5) したがって、一審被告が一審原告らから情報料を回収する法的根拠はない。

(二) 電話管理者責任

前述のとおり、電話管理者としての一審原告らの責任をいう一審被告の主張は失当であり、Q2の利用を監督できると主張することは信義則に反し許されない。

(三) 利益の現存

(1) 本件の利得は金銭であるから、利益は常に現存する。

(2) 情報料債務の負担者は実際の利用者であるから、一審被告が右債務を負担しない一審原告らから情報料を回収して業者に支払ったとしても、それは法律上の原因なくして支払ったものであり、一審被告は業者に対し、同額の不当利得返還請求権を有することになる。

(3) また、右支払が第三者弁済として有効ならば、一審被告は実際の利用者に対し、求償権を取得することになる。

したがって、いずれにしても、一審被告に利益は現存するというべきである(最判平成三年一一月一九日民集四五巻八号一二〇九頁)。

(4) 一審被告は業者から番組手数料及び回収手数料を得ているから、情報料を支払済であるとしても、右の利益は現存する。

(四) 悪意の受益者

(1) 回収代行契約には、一審被告が情報料を回収できないときは業者に支払わない旨、また、一審被告が業者に支払った情報料中に回収できなかった料金が含まれていることが判明した場合には、一審被告は業者に当該料金相当額を返還請求し、又は別の料金と相殺処理できる旨の規定があり、一審被告は一審原告らに対し、Q2通話料債権を有しないことを知りながらこれを請求し、受領したものであって、悪意の受益者である。

(2) そうでないとしても、一審被告は、多少とも法的検討を加えれば、一審原告らに対し、情報料を請求し得ないことが理解できたにも拘わらず、敢えてこれを請求、受領したのであるから、重大な過失があったというべきであり、悪意の受益者と同様に扱われるべきである。

(五) 信義則違反

一審被告は本訴提起時までは、業者の利用者に対する情報料債権の回収代行であることを明示することなく、かつ、回線使用料と情報料との区別は勿論、Q2外通話料とQ2通話料の区別もせず、これらを渾然一体としてダイヤル通話料として一審原告らに請求していたのであるから、今になって現存利益がないとか、善意であったなどと主張するのは信義則に反する。

第四  判断

一  争点一について

1  Q2の法律関係

証拠(甲一五、乙一、二)並びに弁論の全趣旨によると、

(一) 加入電話からQ2を利用すると、利用者(通常の場合、加入者)は一審被告に対し、回線使用料債務を、業者に対しては情報料債務を負担する。

(二) 一審被告は利用者から回線使用料を徴収すると共に、回収代行契約に基づいて利用者から情報料を回収し、これを業者に支払う。

(三) 利用者と加入者とが異なる場合でも、一審被告は約款一一八条及び一六二条に基づき、加入者に回線使用料及び情報料を請求することになる(その当否は後述)。

(四) 但し、利用者が一審被告による情報料の回収を拒んだ場合には、一審被告はその回収をせず、したがって、業者にもその支払をしない。

ことが認められる。

2  右認定の法律関係によると、情報料債権者は業者であり一審被告ではなく(一審原告らもこの点は争わない、前記第三の三2(一)(5)⑤)、利用者が一審被告による情報料の回収を拒んだ場合には、一審被告はその回収をせず、業者に支払わないのであり、現に、一審被告は本訴においても、一審原告らに対し、情報料は固有の債権ではなく、また、その回収をしない旨表明しているのであるから、本件債務不存在確認請求のうち、情報料に関する部分は棄却を免れない。

3  証拠(甲三四の七)並びに弁論の全趣旨によると、一審原告髙原の平成三年三月分のQ2通話料(一九万三一八九円)の支払は但陽信用金庫の過誤によるものと認められるから、同原告は右通話料を支払っていないというべきである。

二  争点二について

1  証拠(甲五〇の一、二、五一の一ないし四、五六の一、三、四、乙七八ないし八〇、八三の一、二、八四の一ないし五、九〇、一一三ないし一一五)並びに弁論の全趣旨によると、一審原告苅田及び同伊藤についてはその家族又はその関係者が、同松谷については同原告自身又は妻が加入電話によりQ2を利用したものと認められる。

2  一審原告松谷は、家族構成(妻と当時一歳の幼児)及び本件以外にはその前後に全くQ2を利用していないという状況から、Q2は利用していない旨主張、供述するが(甲五〇の一、五一の一、五六の一、当審における証人松谷成美及び一審原告松谷)、前掲右各証拠に照らして措信できない(原判決説示のとおり、受話器の掛け忘れということもあり得る)。

3  証拠(甲八の二、八八ないし九四、枝番を含む)によると、第三者が他人の電話回線に細工をしてQ2を利用した例もあることが認められるが、前記原告らにつき第三者が同原告らの電話回線を無断利用したことを認めるに足る証拠はない(なお、乙一二四ないし一二六)。

4  なお、一審原告髙原は子弟がQ2を利用したことは認めるものの、Q2のうち、株式情報は自身は勿論、子供も利用したことはない旨述べるが、証拠(乙二九の一、二、八七)に照らして措信できない。

三  争点三について

当裁判所は、一審原告らは、自らQ2を利用していなくても、その加入電話からQ2が利用された場合には、約款一一八条により回線使用料の支払義務があると判断する。

その理由は次のとおりである。

1(一)  約款一一八条は、加入電話による通話においては、通話者を確認したり、通話者と加入者を区別することは事実上不可能であり、その利用を特定し得る手段は電話番号のみであるから、加入電話により発信された回線使用料については通話者が誰であるかを問うことなく加入者に支払義務を課するという趣旨にでたものであって、相応の合理性を有するものである。

(二)  ところで、回線使用料は一審被告の電話回線を使用することの対価であり、右は一般の通話に限らず、Q2の場合でも何ら変わりはないから(料金も同じである、甲九五、九六、乙一、二)、Q2の利用につき約款一一八条の適用を否定する理由はない。

そうすると、一審原告ら自らがQ2を利用したか否か、また、その回線使用料の多寡を問わず、加入者である一審原告らは一審被告に対し、回線使用料を支払う義務があるというべきである。

2  一審原告らの主張について

(一) 証拠(甲一八、一九、乙一三八、一三九の一ないし三)によると、Q2は専ら営利を目的としたものではなく、また、回線使用料は電話回線を使用することの対価であり、その使用形態は一般通話とQ2とで全く違いはない。

確かに、Q2業者にはいかがわしい業者もあったことは認められるが(甲一ないし五、一〇一、一〇二、枝番を含む)、そのことから直ちに一切のQ2が無用であると断ずることはできないし(乙五五ないし六三によると、震災の義援金募集等に寄与したことが認められる)、その後、一審被告の審査の厳格化等により悪質業者の進出が阻まれていること、Q2の利用も申込性に移行していること、申し出ればQ2には架電できないようにすることも可能となったこと等、種々の改善がなされているから(乙八、一〇ないし一三、三九ないし四三、五二、一二一ないし一一二三、一三三ないし一三五、枝番を含む)、今後は悪質なQ2の提供、その利用はかなりの程度防止することができると考えられる。

(二) 回線使用料が高額になるのは何もQ2に限ったことではなく、長電話や長距離電話、また国際電話の場合でも同様であり、Q2に特有なものではない。

回線使用料が単位料金、利用時間、利用回数によって規定されることからすれば、高額化の問題はQ2の利用の仕方の問題である(料金が高いといっても、最初に何秒毎に何円である旨の説明があるのであるから(原審検証の結果)、利用者において留意すれば済むことである)。

(三) また、通常の場合、他人による無断利用の危険性はあまり考えられず、家族による利用が殆どであり(現に、本件においてもそうである)、これらの者は実質的には加入電話の共同利用権者であるというべきであるから、加入者に支払義務を認めてもさして不都合はないし、加入者は適切な電話管理が可能であるから(回線使用料を加入者に負担させるべきか否かを判断するにつき電話の管理状況を指摘することは、加入者の債務不履行責任や不法行為責任を問うものではない)、加入者にQ2利用の危険を負担させることが公平にかなうというべきである(約款一一八条はこのような共同利用の実態をも考慮に入れた規定と解される)。

(四) 証拠(乙三七、三八、六四ないし七二)によると、Q2発足の当初から相当な広報活動がなされていることが認められるし(Q2が無認可業務といえないことについては後記四2(一))、そもそも、加入者において、家族による頻回ないし長時間の電話利用を控えるように管理しておけばよいのであるから、これは周知、徹底以前の問題である(一審原告らの供述録取書(甲三八の一、三九の一等)によると、同原告らは子弟によるQ2利用が判明した際、以後利用しないよう注意、指導していることが認められる)。

(五) 前記のとおり、情報料と回線使用料は異なる当事者間の個別の契約関係に基づいて発生するものであるから(情報料は業者と利用者との間に、回線使用料は一審被告と加入者との間に生じる)、両者の間には法的に一体性があるものではない。

Q2発足当初は情報料と回線使用料との区別、Q2外通話料とQ2通話料との区別がされず、これらが渾然一体として一審原告らに請求されていたことが認められるが(甲三四の一ないし五、三八の一ないし三、四〇の一ないし四、四一の一ないし三、四二の一ないし四等)、しかし、右は交換機の性能という物理的な理由に基づくもので(乙三、二八、九三、弁論の全趣旨、通話時間と通話先から回線使用料が算定され、これを情報料と回線使用料との合計額から控除することにより情報料が算出される仕組みであった。)、現在では分計が可能である(なお、両者を分計できない分については、一審被告は回線使用料につき一審原告らの不利にならないように最低の数値により算出しているところである、乙一二九)。

以上によると、Q2は電話の利用を通じて供給されるという実態から、回線使用料と情報料の請求が事実上同一に扱われているに過ぎないものというべきである。

なお、業者と一審被告が共同事業者であることを認めるに足る証拠はない(一審被告は業者から番組手数料及び回収手数料を得ているに過ぎない)。

(六) そうすると、一審被告による回線使用料の請求が信義則に反するものといえないことは明らかである。

(七) また、子弟に対するQ2利用の管理は通常の長電話、長距離電話の管理と本質的に違いはないから、管理不行届の主張が信義則に反するとはいえない。

四  争点四について

当裁判所は一審被告に回収済情報料の返還義務はないものと判断する。その理由は次のとおりである。

1  一審被告は、回収代行契約及び約款一六二条に基づき一審原告らから情報料を回収したのであり、回収済の情報料は業者に引き渡す義務を負っており、証拠(乙二八、八六ないし九三)並びに弁論の全趣旨によると、一審被告は一審原告らから回収した情報料を既に業者に支払済であることが認められる(前記三2(五)のとおり、合計通話料から回線使用料を控除して情報料を算出できるから、回線使用料と情報料とを分計できないからといって、一審被告が業者に支払ったことにならないとはいえない)。

したがって、情報料は一審被告の利益ではなく、一審被告は受益者ではない。

2  一審原告らの主張について

(一) Q2制度は法一条二項の附帯業務であり、約款一六二ないし一六四条は届出で足りるとする行政上の取扱を違法とすべき事情は認められない。

また、Q2は電話を利用した情報提供サービス及び情報料の回収代行サービスであるから、一審被告において回線使用料に併せてQ2情報料を同時に回収する必要性及び合理性があり、情報料の回収代行が通常の通話料の回収と異なって弁護士法に違反するとまでいうことはできない。

(二) 一審被告は回収代行契約に基づき業者に情報料を支払ったのであるから、仮に、一審原告らに右情報料の支払義務がなかったとしても、一審被告には、業者に対する支払済情報料の返還請求権はない。

また、証拠(乙九三)並びに弁論の全趣旨によると、一審原告らの電話回線の交換機の種類によっては、また、一審原告らから料金明細の登録希望がなされていない場合には、一審被告には本件Q2の架電先(業者)を特定できないことが認められるから、一審被告がかかる業者に支払済情報料の返還を請求することは不可能である。

(三) 更に、一審被告には実際のQ2利用者が誰であるかを特定することはできないから(乙一五、弁論の全趣旨)、求償は不可能である。

(四) 前述のとおり、一審被告は情報料の受益者ではないし、同被告が得る番組手数料及び回収手数料は回収代行契約に基づくものであるから(しかも、番組手数料は業者が一審被告に着信指定回線にかかる回線使用料を支払う際に支払うものである、甲一五、乙二)、右各手数料も一審原告らから利得したものとはいえない。

(五) その他、一審被告が受益者であることを前提とする一審原告らの主張は失当である。

五  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官蒲原範明 裁判官糟谷邦彦 裁判官入江健)

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